寺報『信友』239号の巻頭「信用は一日にしてならず」を転載いたします。
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みなさん、アシダカグモという蜘蛛を御存じでしょうか?
我が家にたまに現れるこの蜘蛛、長い手足を持ち、壁や天井を素早い速さで動き回ります。大きいものは右足の先から左足の先まで15センチにもなるのだとか。見た目の気持ち悪さはなかなかのもので、不快害虫と称されます。虫が大嫌いな妻や子供たちが見つけてしまえば、悲鳴を上げての大騒ぎです。
しかし、アシダカグモ、実は良い奴なのです。インターネットで調べてみますと、
・毒を持たず、人間への攻撃性はない。
・巣を作らないので、網で家屋を汚すことがない。
・ゴキブリやハエなどの衛生害虫を捕食してくれる。
・口から出す消化液には強い殺菌能力があり、自身の脚などもこの消化液で手入れを行うので清潔。
・食物の上などを這い回ることも無い。
・家の中のゴキブリを始末しつくすと、次の獲物を求めて、静かに去っていく。
なんとまあ良い奴ではないですか。見た目は不快害虫ですが、人間にとってはこの上ない益虫なのです。
なので、子どもたちが騒いでも、「この蜘蛛はみんなの味方だからね」と諭す私。子どもは素直なもので、今では「友達だもんね」と怖がらなくなってきました。
一方、妻はまだ嫌悪感を隠しません。先日も悲鳴をあげる妻を「まあそのうちいなくなるからさ」となだめてみたところ、こんな言葉が返ってきました。
「今日会ったばかりの蜘蛛をなんでそんなに信用できるのよ」
ふと、妻の言うことも一理あるかもと考え込んでしまいました。信用するとは、たしかに一朝一夕にできるものではありません。
お寺もしかりです。
たとえば、永代供養では、
「○○さんがお亡くなりになったら、そこから一〇年間、春秋の彼岸法要と夏の施餓鬼法要の年3回、ご回向をします」
といった覚書を交わします。
もちろん「契約」を交わすわけですが、お亡くなりになった後のことで、本当に年3回の回向が実施されるのか、ご本人は確認のすべがありません。
それでも永代供養をご依頼いただけるのは、法要でのご回向を実際に目にしていたり、長年のお付き合いから蓮宝寺は悪いことはしないだろうと「信用」していただいているからなのだと気付きました。寺離れや寺院消滅といった言葉が飛び交う現代社会で、実にありがたいことです。
アシダカグモの話からずいぶんと脱線しましたが、「よく知っている蓮宝寺さんだから信用できるのよ」と言ってもらえるよう精進していこうと思った出来事でした。

