新年度が始まり、心躍らせる季節のはずが、新型コロナで大変な状況です。
最前線で懸命に働かれている医療従事者、福祉関係の方々、流通や小売など日常生活維持のために尽力されている職業の方々に心より敬意を表します。また、経済的に大きな影響を受けている方々には、行政の支援があることを願っております。
寺院として何かできることはないかと自問自答してはみるものの、浄土宗で疫病退散の御祈願ができるわけでもなく、平安を祈るのみです。
人間の歴史は疫病との闘いの歴史とも言われます。人間の移動範囲が格段に広がった現代は、昔よりも疫病が流行しやすい世界。今の新型コロナが落ち着いても、また新しいウィルスが十年、二十年くらい後に猛威を振るうと予想する人もいます。
「疫病との闘いの歴史」と書きましたが、人間が疫病に完全に勝利したことは天然痘の一回だけだそうです。他のウィルスは根絶することはできず、予防ワクチンや薬の開発はできても、ウィルスを無くすことはできていないのだとか。ですから、「ウィルスとの付き合い方を習得する歴史」と言った方が適切なのかもしれません。
ワクチンや薬の開発に一年以上はかかるはずです。焦らずに付き合い方を学んでいくしかありません。
仏教精神でこの事態にどう対応したら良いのかと考えていましたら、東日本大震災直後の彼岸法要でお配りしたメッセージを思い出しました。
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六波羅蜜を実践しましょう!
お彼岸とは、もともと「六波羅蜜(ろくはらみつ)」という六つの仏教修行を行ない、彼岸(悟りの境地)を目指す期間であったとも言われています。
こんな大変な時期だからこそ、六波羅蜜を行いませんか?
1.布施波羅蜜:義援金や救済物資を被災者に届けましょう
2.持戒波羅蜜:自らの生活を律しましょう
3.忍辱波羅蜜:不自由、不便に文句を言わないようにしましょう
4.精進波羅蜜:自分が今できることを粛々としましょう
5.禅定波羅蜜:まずは心を落ち着けましょう
6.智慧波羅蜜:デマに惑わされず正しい情報をもとに、自らのなすべきことを考えましょう
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簡単に言えば、欲を小さくし、他者のためを思い、心を乱されず、あるがままに物を見ましょうということ。(本当に簡単に言ってしまって、仏教学者に知られたら怒られますので、ご内密に)どれも今の状況でも、役立てられるのではと思います。
布施は、今なら、必要以上に買い占めることなく、自分が得られるであろうものを他者に振り分けるということも当てはまります。また、柔和な表情や優しい言葉も、他者に安心を与える布施(無畏施といいます)になり、緊張が高まる世の中に求められていますね。
持戒は、こまめな手洗い、うがい、咳エチケット、免疫を高めるための規則正しい食事・睡眠、常に水分補給を欠かさないということも。
忍辱は、不当な不自由に文句を言うなという意味ではなく、はたして今、不自由・不便に感じていることは、本当にそうなのかと一度立ち止まって考えてみましょうという意味です。
精進は、書いてある通りです。家の中ばかりでやることがないとお嘆きの方も、落ち着いてみればやることが見えてくるかもしれません。奥様の家事の手伝い、お仏壇のお掃除などなど。
禅定は、国民のストレスが総じて高くなっている今、とても大事なことかもしれません。イライラしたり、不安だったり、そんな時にはまずは一息つきましょう。そして、「イライラする!」「コロナが怖い!」と感じていたら、頭の中で「私はイライラしている」「私はコロナを怖がっている」と文章変換してみましょう。すると、「私」と「感情」が切り離されて、心が少しだけ落ち着きます。また、お念仏も心を落ち着けるのにオススメです。
智慧は、テレビなどに一喜一憂しないということでしょうか。基本的に、テレビは不安をあおるのが仕事。買い占めはやめましょうと言っておきながら、空っぽの商品棚をこれでもかと映せば、そりゃ慌てて買いに行くのが人間の心理というもの。「ウィルスは空中に三時間以上、生存する」と報道されましたが、裏を返せば、四時間は生存しないわけです。見せ方ひとつで不安にもなるし、安心にもなるので、冷静に見極めましょう。
コメンテーターも誰が本当のことを言っているのかよく分かりません。話半分に聞き、科学的根拠を求めましょう。そもそも、誰もがこんな事態は初体験なのですから。
こういう状況下では、他人を許せなくなりがちです。ニュースを見れば、「なんで若者は外出してるんだ」と怒りを感じることでしょう。「家に居場所がないのかも」、「一人で家にいる孤独に耐えられないのかも」と少し視点を変えてニュースを見れば、許せるようになることも。
六波羅蜜は、それぞれが独立するものではなく、全てがつながっているものです。どれか一つを心がければ、他の五つも自然と実践できるようになると思います。
とはいえ、私たちは不完全な生き物です。怒りも不安も戸惑いも、ウィルスと同じく、ゼロにはできません。根絶を目標とせず、不安とうまく付き合っていくことを目指して、六波羅蜜をお試しください。
みなさんの日々の生活が、ほんの少しでも穏やかになるよう、お役立ていただければ幸いです。
(いつもは寺報「信友」発送後にHPに転載している巻頭文ですが、今回発送がやや遅れておりますので、先にHPに掲載いたしました。)