比べなくてもあなたはあなた

寺報『信友』234号の巻頭「比べなくてもあなたはあなた」を転載いたします。
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毎年、年末にお送りしております浄土宗月訓カレンダー。5月の月訓は、標題の「比べなくてもあなたはあなた」でした。

浄土宗では『浄土宗新聞』という月刊新聞を出しておりまして、「今月のことば」というコラム欄があります。カレンダーの月訓にちなんだコラムが掲載されるのですが、そのお鉢が私にまわってきました。二十部ほど掲載紙が送られてきましたので、寺に置いております。お参りの際、ご自由にお持ちください。とはいえ、なかなか皆さんがお手に取るチャンスはないのも現実ですので、ここに転載いたします。
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新緑が目に鮮やかな季節になりました。私はスギの花粉症なので、久々に新鮮な空気を思い切り吸い込めてうれしい毎日です。お檀家さんに会えば、「良い季節になりましたね」とあいさつを交わしています。

しかし、ふと考えてしまいます。本当に良い季節なのかしら、と。私にとっては良い季節でも、イネの花粉症の方にとってはピークを迎える悪い季節かもしれません。「良い」も「悪い」も人それぞれに異なるもの。「季節」はただ「季節」に過ぎず、私たちが勝手に個人的評価をつけているだけなのかもしれません。

私たち自身も勝手な評価をお互いにつけ合い、時にそれに苦しんでいると感じることが多々あります。職業柄、悩みの相談を受ける機会がありますが、そこで気づくのは評価されたり、比べられたりすることに疲れている方々がたくさんいるということ。この世界は小さいころから、成績という評価軸で他人と比べられる競争社会です。例えば95点をとっても、親からはほめてもらえずに、「なんでこの5点ができないんだ!」と叱られていたなんてお話をうかがったことがあります。その親にとっては「95点を取ったがんばった」子ではなく、「あと5点を取れなかった残念な」子になってしまい、本人もご自分をそう思うようになってしまったのだそうです。

家庭や学校では「良い子」や「普通の子」であることを求められ、ちょっと外れてしまうと「ダメな奴」「変な子」というレッテルを貼られてしまう。大人になっても同様で、いつまでも他者からの評価を気にする社会に生きなければなりません。疲れてしまうのも自然なことです。

浄土宗が拠り所とする経典『阿弥陀経』に、「青色青光(しょうしきしょうこう) 黄色黄光(おうしきおうこう) 赤色赤光(しゃくしきしゃっこう) 白色白光(びゃくしきびゃっこう)」という一節があります。これは極楽浄土では青い花は青い光を、黄色い花は黄色い光を放つという描写で、それぞれの花がそれぞれの光で輝く、その良さを示したものです。

阿弥陀さまの世界は、評価されることも比べられることもなく、みんながそのままでいて良い世界。現代社会はなかなかそうはいきませんが、阿弥陀さまはいつも、「あなたはあなたのままでいいんだよ」と語りかけてくれています。
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いつも、信友では、あまり仏教的なことを書いていないので、お坊さんらしさを感じていただけたでしょうか?(笑)

街はアジサイが咲きだしてきました。青や紫、赤、いろいろな色で咲き誇り、うっとうしい梅雨時期の一服の清涼剤ですね。どんな色もきれいだなと阿弥陀さまの心で楽しみましょう。